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桃太郎

桃太郎は鬱陶しそうに草や木をよけながら進んでいた足を止めた。
「む…?」と一言唸り考え込む。
鬼退治を目指してここまで来たが、一向に鬼の姿は現れない。
もしや、あの子どもが鬼だったのでは?
と、桃太郎は考えるようになった。

そうだ! きっとそうに違いない!
あの子どもが鬼だったのだ!

「くそ〜鬼め―、私を騙しおったな!」

そう言うなり、180度方向転換し、ドタバタと元来た道を走る。
今からあの子どもを追いかけ退治しようというのだ。
桃太郎にしては珍しく長く走った。
だが走っても走っても子どもの姿どころか、村すらも見えてこない。
おかしい。もしや迷ったのか。しかし同じところをグルグル回っているような気がするのは気のせいだろうか。

「はぁっ、つ…つか、れた…」


走り過ぎて足がガクガクと震えている。
桃太郎は近くの木にもたれ掛かって座った。

「はぁ、はぁ」

乱れる息を整えるが、冷気が桃太郎の体を苦しめる。ヒュー、と不気味な音をたてる風から身を守るように両腕で体を抱きしめた。

「……………寒いな」

「………」

ぐー

「腹減った……」
(ボトッ)

「痛っ!?」



お腹を鳴らした瞬間、頭にべちゃっと何かがあたった。
辺りに広がる甘い香り。
その匂いに桃太郎は、首まで滴る液体を指ですくい、何の迷いもなく甘い液を舐めた。

「な、なんだコレは…! う、旨い!」

一体どこから…とキョロキョロあたりを懐中電灯で照らすと、そばに潰れ、甘い汁を流している物体が落ちていた。
触れるとぶにゅ、とした感触。桃太郎は確か上から落ちてきたな、と頭を上にあげた。

見ればもたれかかっていた木に、あの桃色の実が少ないながらも生っているではないか。

目を輝かせて懐中電灯をポイッと投げ置き、枝に生っている甘い実をとろうと背伸びをし両腕を上げた。
ようやくとった一個にかぶりつく。果汁が口いっぱいに広がり、桃太郎のお腹を満たしていった。
1つ食べ終わりまた上に腕を伸ばした桃太郎は、枝の上の黒い靄を目する。
目を凝らして見てみれば、どうやら人らしい。

何時からいたのか、フードをかぶったその人物も果実を食べているようだ。



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